「頭のいい奴隷」
(『イソップ残酷物語』より )
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むかし、むかし。
あるお大尽が大勢の奴隷をお供にし、長い旅に出ることになりました。
奴隷たちはだれもが、道中でいるたくさんの荷物の中でなるべく小さくて軽いものを運ぼうとして、取り合いになりました。
そんな中で。ひとりの頭のいい奴隷がおり、彼だけはあらそいに加わらず、はじめから、いちばん大きくて重たい荷物を運ぶことにしたのです。
それを見た他の奴隷たちは、頭のいい奴隷を笑いものにしましたが、頭のいい奴隷は平気でいます。
頭のいい奴隷が運んだ大きな荷物は、みんなの食糧だったのです。
果たして。頭のいい奴隷の運ぶ荷物の中身は、日に日に、みんなのお腹の中へと消えていき、目方のほうはどんどん減る一方。
そしてとうとう、運ぶ荷物がまったくなくなった頭のいい奴隷は、なにも持たずに歩けるようになったのでした。
反対に、他の奴隷たちは困憊していくばかり。なにしろ食べるものが何もなくなってしまったのですから。
しまいには、みんなが力尽き、運ぶことも歩くことも出来なくなりました。
頭のいい奴隷は口笛を吹き、みんなのそばで得意げに小躍りしています。実は彼、自分の食べる分は着服し、隠していたのです。食糧を運んだ者の役得でした。
従者らの困窮ぶりを知らされた御主人様が言いました。
「奴隷どもの食糧が尽きただと? 仕方がない。あの役立たずの奴を殺して、食わせてしまえ」
かわいそうに。
運ぶ荷物のなくなった頭のいい奴隷は、真っ先に殺され、みんなに食べられてしまいました。
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