「コンダラ太郎」
若くしてチャンスをつかみ、財を築いた男がいた。
彼は出身校に恩返しすることにした。
母校で発足なったばかりのある運動部に、コンダラすなわち地ならしに使うローラーを寄贈してやろう。
唐突に大物OBから激励の手紙を添えたコンダラが届けられ、歓喜する部員一同および女子マネージャー。
「うわーーっっ!! すげえ嬉しーーっっ!!」
「よかったわねえ」
自分たちを応援してくれる強い味方があらわれたのだ。
数日後、その卒業生は母校を訪ねる。
「寄贈してあげたコンダラは役立ってるかな」
「先輩〜。俺たち今、すごいミジメっすよ。俺らのクラブ出来立てで専用グラウンドもないのに、コンダラなんか贈られたってどうしようもないじゃないすか」
ほんとうに何もない運動部だった。
部員が足りない。顧問がいない。予算が付かない。部室もなく、ユニフォームも作れない。
「こんなこともあろうかと思ってね。あのコンダラの中には秘宝を封じ込めておいたんだ。ローラーを二つに割れば、中から高価な宝石類が出てくるから、それで部費に充てるといい」
歓喜する部員一同および女子マネージャー。
「よかったわねえ」
さらに数日後、くだんの卒業生は再び、母校を訪ねる。
後輩たちの喜ぶ顔が見たかった。
しかし。
「先輩〜」
部員たちは困惑顔だった。
「コンダラを真っ二つに割れったって、あんなデカくて、重くて、やたらと固い石の塊、いったいどうやって割ったらいいか見当つかないじゃないすか」
「それは考えなかった」
数日後、運動部には強力な粉砕機能をもった削岩機が追加で贈られた。
さらに、別のコンダラがダメ押しで運び込まれた。
月日は流れた。
「先輩〜」
「やあ、勝ってるかい?」
「連戦連敗で、未来に希望がつなげないっす」
落胆の部員一同および女子マネージャー。
「くやしいわねえ」
金銭面での援助をうけ運動具も練習場もユニフォームも何もかも揃いながら、肝心なものが欠けていた。
天分に恵まれた強い選手がいなかった。
「こんなこともあろうかと思ってね。新しいコンダラの中に遺伝子工学が産み出したコンダラ太郎という地上最強の選手になるはずの赤ん坊を仕込んでおいたんだ。あのローラーを真っ二つに割れば、中から、きみたちに勝利をもたらすコンダラ太郎が出てくるはずだよ」
歓喜する部員一同および女子マネージャー。
「よかったわねえ」
数日後。
「先輩〜」
「やあ、コンダラ太郎は役に立ってるかい?」
「コンダラの中から、赤ん坊の死体が出てきましたよ。桃太郎じゃあるまいし、あの石の塊のなかに赤ん坊なんか詰めても、死ぬだけだってわからなかったんすか?」
「それは考えなかった」
あきれ果てた様子の部員たちとマネージャー。
「この先輩、頭の中になんにも入っていないのね」
† † †
それから、しばらくして。
今度こそ、生きたコンダラ太郎が部員たちのもとに届けられた。
やがて、この物語の主人公となる赤ん坊だ。
そう。やがて――。
立派に育てられた場合の話だったのだが……。
「先輩〜」
「やあ、コンダラ太郎は……」
部員たちは一斉に、噛み付いてきた。
「赤ん坊成長するのに何年かかると思ってるんすか。俺たちに親代わりになって育てろって言うんすか? あいつ、十五年はたたないと役に立たないじゃないすか」
「それで、コンダラ太郎はどうした?」
「捨ててきましたよ」
「そ、そんな……そんなこともあろうかと思って……」
何事にも動じなかった男が今度ばかりは、わなわなと身を震わせている。
「普通の人間より早めに成長するよう遺伝子をプログラムしてある。だから育児の苦労は短い間で済ませられたんだ。数ヵ月後には、立派な成人の姿になり選手として活躍できたはず。だが……」
「捨てたとなると、由々しい」
彼の口調はまるで、これから起こる大惨劇のシナリオを読み聞かせるようだった。
「あいつの体の中には休みなくスタミナを発揮できるよう核融合炉が埋め込まれ、さらには優れた運動能力により周囲の喝采を浴びないと生きられないようプログラミングしてある。つまりみんなから無視されたり、誰からも愛されず称賛もされない場におかれるとだ、内部で原子炉が溶解し核爆発をおこしてしまう。そうならぬようコンダラ太郎は必死で競技に勝ち、スター選手であり続ける定めになっているのだ。それをきみたちは……」
ひえ〜〜〜〜っっ!!
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