「霊能大戦」
――死んだら、敵になる!――


                  



フット3



 来ることがわかっていたとはいえ、いざその脅威に見舞われてみると他の地域と同然、防ぐ術は何もなかった。
 死の訪れとおなじように。

 いや、よろこんで受け入れる者などいるはずがない。
 町の通りは右往左往する人の群れで、一大恐慌状態だ。
 阿鼻叫喚の中、目当てもなく散り散りに、あるいは固まって逃げる人々の頭上から、雲霞のごとく大量の浮遊物体が飛来する。
 なに?
 フットは目を疑った。
 頭巾と長衣に身を包んだ骸骨のような顔貌の怪異が、大きな鎌をかまえている。
 宙に舞い、滑空するようになめらかな動きで向かってくる。
 その姿たるや、子供の頃に怖い話で聞かされた死神そのものだ。

 そこかしこで、飛来する死霊の群れを迎え撃つ小銃の発砲音が轟いた。
 効き目はまるでなく、撃ち落されたのは鳥だけだった。
 死霊どもは逃げる群衆に襲いかかり、容赦なく鎌をふるった。
 おぞましい切断音が各所で轟き、大量の血しぶきが、多数の人間の首が宙を飛んだ。
 
「ああ、神様!」
 キティは、群衆に注視される立場から、眼下の光景を眺めやるだけの小娘へと戻った。
「ねえ、フット。こんなド田舎まで死霊は来ないって言ったの、誰だっけ?」
「奴ら、都会に疲れて心が荒んだのさ。保養に来たんだろう」
 茶化してる場合じゃない。
 死霊たちは飛びまわって獲物を物色しており、二人のいる屋根の天辺はとびきり目立つ場所だ。
 いまにも心の癒しを求めてくるかもしれない。
「逃げろ、キティ」
「待って」

「映画で見たのよ。乗ってる船が魔の海域に迷い込んでさ、無数の悪霊に囲まれちゃうんだけど。主人公がギターで曲を弾くと、悪霊どもは魂が鎮められるように消えていって、みんなが難を逃れるの」
「だから?」
 キティはギターを持ち上げてみせ、返事に代えた。
 やめろよな。
「映画じゃないんだ。うまくいくわけが……」
「やってみる」
 キティは、ギターをかき鳴らした。
 たしかに、死霊たちの反応には変化があった。
 逃げずにとどまる相手はすぐに襲わず、様子見する性向があるらしい。
 キティの周囲に一定の距離をおいて、死霊が集まってくる。
 彼女は、威嚇するかのごとく周囲を舞いただよう死霊の群れに臆した風にしばし歌いよどんだ。
 どうしよう? 何を聴かせよう?
 そうだ、これがいい。
 キティは、ギターの伴奏に導かせるように、童謡『ローディ叔母(おばあ)に言っといで』をなるべく陽気な調子で口ずさみはじめた。

ローディ叔母(おばあ)に言っといで〜♪
ローディ叔母(おばあ)に言っといで〜♪
ローディ叔母(おばあ)に言っといで〜♪
老いぼれグースがおっ死んだ〜♪
叔母(おばあ)がそいつを飼ったのは〜♪
叔母(おばあ)がそいつを飼ったのは〜♪
叔母(おばあ)がそいつを飼ったのは〜♪
羽毛の寝床を作るため〜♪
水車の池辺でおっ死んだ〜♪
水車の池辺でおっ死んだ〜♪
水車の池辺でおっ死んだ〜♪
頭を逆さに突き立てて〜♪

 死霊たちはおとなしく聴き入っているようだ。
 フットが、これはもしかしたらと気を緩めたのも束の間。
 効き目は歌っているときだけだった。
 歌い終えて拍手喝采で応えられると思いきや。キティのもとにはたちまち四方から死霊が殺到してきた。
 到底、サインや握手を求めてきたようには見えない。



( 続く )




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