ご注意
以下の文章は、もう十年以上も前に書かれたものです


初講は、もっとも重要なこと
「はじめに計算力ありき」



 二十世紀には、人類文明を根底から変える二つの大パワーが生み出された。
 原子力と電子計算力だ。

 しかしながら前者は、後者の発揮しうる潜在的底力とくらべれば、ダイナマイトの巨大化版というにすぎない( 取り扱いにひときわ注意を要するのは当然だが )。
 二十一世紀を支えるものは、疑いもなく、電子計算力のほうである。


 南北戦争以前、アメリカ南部における白人たちの暮らしぶりは奴隷労働による綿花生産で支えられていたが、現代以降における人々の生活の快適度は、コンピューターの計算力が集約されたマイクロ・チップの精度向上に応じながら跳ね上がっていくことになろう。

 実際、電子的な計算コストは未来社会の豊かさをあらわす指標となり得る。

 人類がこの先々、技術的発展によってみずからにもたらすであろう恩恵の度合いを推し測るには、対価計算力なるものの伸び率がなによりの目安なのだから( これこそ、新世紀大学流未来予測の心髄だ )。

 ベリーの著作『次の五百年』( 徳間書店刊 )――未来についての前向きさでは、ハドソン研究所にも劣らない――の中で引用されているハンス・モラヴェックの言葉をさらに引用しよう。

『一ドルでまかなえる計算力の量は、今世紀初頭から、二十年ごとに千倍になっている。八十年間で計算の費用は一兆分の一になった。人間型のコンピューターをつくるには、一秒で二十兆回演算をおこなえる程度の計算力が必要だ。この調子で改良が進むなら、2010年には1000万ドルのスーパー・コンピューターがこれを達成し、2030年には1000ドルのパソコンでも大丈夫ということになる。』

 「1000万ドルが1000ドルの千倍」とされているが、翻訳するとき、ゼロの桁を間違えたのかもしれない。とにかく、1000万ドルであれ100万ドルであれ、1000ドルとは大きく違う。
 前者は王族価格。後者が大衆価格。

 人工衛星の軌道計算、自律型ロボットのプログラミング、気象の変動予測……これらの大仕事に要する演算をおこなうための費用はいかほどの額だろう?  そのいずれもが、二十年後には千分の一の値段で手に入れられるようになる。

 西暦2010年から2030年にかけての二十年の間に、社会の姿を一新させるような変革が待ち受けることが合理的に予期されるのだ。



「農業革命、産業革命に続く、第三の革命が進む二十一世紀が電子頭脳による桁外れの計算力に支えられる時代だとしたら、情報化革命とか情報化社会という呼称はふさわしくないのでは?」
「そう。正確には、計算力革命がもたらす高度演算化社会だ。インターネットも光ファイバーも通信衛星も、スパコンの助けがなければ役立たないものばかりだからね」




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