ご注意
以下の文章は、2009年秋より前に、
つまり自民党がまだ日本を支配していた頃に書かれたものです

なにが靖国派をのさばらせたか
――ROOSTER ROOST――




「ニワトリ。おまえ、大変な国に住んでるんだな」
「日本って、変な人ばかりじゃないですよ。良い人もいます、うちの御主人とか」
「おまえの飼い主ってのは、どんな具合に良い人なんだ?」
「人として最高です。うちの御主人はトリ食べません」
「人を食ったこと言うトリだな」




前のページでは、いかにも国全体が歴史修正主義に制圧されたようなことを書いてしまったが、状況はそれほど悲観的ではない。
実際に大東亜戦争万歳の靖国主義にかぶれる日本人の数など、ヒトラー時代のナチ党員の割合と同じ、国民全体の中で五パーセントくらいのものだろう。

しかも対極には、なにがあっても靖国派の主張など認めず、先の大戦が内外に未曾有の災厄をもたらした最大級の愚挙だったとする日本人も同様に五パーセント存在する。
そして、残りの九十パーセントが日和見というか自分の利得がなにより大事な人々である。
歴史のうねりとは、この九十パーセントの中間層がどちらの極へどんな比率で分散されるかによってつくりだされる。

新世紀初頭、バランスが悪い向きへ劇的に傾いてしまった。
小泉政権時代の「盗まれた六年」のことである。
この五年半におよぶ在任期間中、小泉純一郎という一本気な調子で嘘ばかり言っていた男は、小ブッシュ政権と協働する対米追従の裏側で靖国派の掲げる主要な政策を押し通すという挙によって、日本に戦後最悪の大反動を現出させた。

民主主義体制の先進国の中で、ファシズム時代をかくも正当化する勢力がここまで幅を利かせたのは前例のないことと言わねばならない。
一体なにが、彼らをここまでのさばらせてしまったのだろう?

実をいえば、内閣総理大臣小泉純一郎の肩をもつ国民のすべてが政治的な理由から支持を表明していたわけではないのだ。
(現に小泉の前任者、森は、「日本は神の国」と発言、つまり靖国派の本音をもらしたことから国民に正気を疑われ、不人気のうちに退陣している。)

ほとんどの人は、戦前への回帰どころか、むしろ日本社会に変革を期待し、そして小泉が変革をもたらしてくれると思ったから政治を任せたにすぎない。
だが、そうした支持を足場に、小泉とそれに続く安倍という靖国派の指導者らは、国民の暮らしを良くするための変革ではなく、国民を時代錯誤な愛国精神で国家に縛り付けるための変革をやった。

むろん、人々の暮らしは良くなるはずもない。
あげくには、信じられない不手際により幾千万口という国民年金の行方までわからなくされてしまった。

それで怒った有権者の報復が、2007年夏の参院選挙での自民党惨敗というわけだ。
靖国派政権はすでに、国民そのものから早々と見放されつつあるのが実情だ。
公徳教育もへったくれもあったものではない。今の日本人には、日の丸よりも英霊よりも、老後の暮らしのほうがずっと大事なのである。
そんなこともわからなかった為政者たちは、まず彼ら自身が公徳心とやらを身につけ直さねばなるまい。
政治とは、民を国に奉仕させるのではない、官が民に奉仕することなのだから。

ファシズムの亜流にしては意外ながら、現代日本での歴史修正主義の支持基盤は、ムッソリーニのファシスト党よりも脆弱だったのだ。


( この章、まだ続く )






キルロイ見てるぞ


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