真の戦犯者たち




　大東亜戦争の歴史的評価は、東京法廷の場で、日本を戦争に引きずりこんだ東条以下の軍国主義者たちを断罪することで決着がつけられたとされています。

　でも、日本軍国集団の犠牲となった占領地の人々から見ればどうでしょう。
　あの裁判は、白人諸国の進駐軍が敗戦国民を懐柔するための茶番にしか映らなかったのではと思います。

　東条以下高級軍人らによる意思を実行したのは東条たちではありません。
　婦女子を含めほとんどの日本人が下された命令に反抗するどころか生命賭けで遂行せんとしたからこそ、東条たちの目論みは巨大な歴史的事態として具現されることになったのです。

　たしかに東京法廷は、かぎられた少数の日本人を血祭りに上げることに情熱的でした。
　しかしながら、良くも悪くも日本歴史の真の主動力である日本国民すべてに、彼らそのものが戦争を支えた張本人だった事実を認識させることにおいて、徹底的に失敗したのです。

　東京法廷による判決は、上澄みをすくってよしとしただけの話で、アジアの正義のためいかほどの貢献をなし得たか疑問です。

　指導者たちが断罪されたということは同時に、その政策にしたがった民衆も罪を背負わされたことを意味するのですが、おおかたの日本人にはそういった観念が希薄です。
　（せいぜい、外地に遠征したスポーツ選手が熱烈な応援にもかかわらず完敗したという程度の受け取り方でしかありませんね。）

　日本の民衆にとって、東条らの処刑は自分たちとはあくまで別の世界の出来事だったんです。
　そして、彼らの戦争は東京裁判で終わりました。

　現に、今ではほとんどの国民が、日本を軍靴で踏みにじる一部好戦論者たちに戦争を強制されたという意味で、自分らこそ被害者だったと思いこんでいる有様ですからね。
　日本人にとっては、それであの戦争のすべてを説明できるのです。ついに真実を直視できぬままに世代を重ねた集団の史的認識とあれば不思議はありません。

　要するに極東軍事裁判の判決とは、ごく少数の戦犯者をスケープゴートにすることで連合国側と日本国民との間に成り立った暗黙の取り決めでした。
　この国の庶民は、集団的な断罪から免れる代わり、以後デモクラシーの陣営に組するという道を選び取ったわけです。

　むろん、筆者も庶民の一人にほかなりません。
　しかしながら、多くの有権者が政策決定者たちによる失態の責を逃れるため自分の身を庶民に位置付けするのを見せられると虫唾が走るのです。




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