2000年の夏、インターネットを始めて間もない頃。 当サイト管理者は、ヤフー掲示板の軍事カテゴリーから「あなたがお奨めの世界の愚将/悪将は?」というトピックを選び、Manforstormというハンドル名で一連の投稿をおこないました。 「ロジェストウェンスキー」や「グルーシー」の名が挙げられたそのトピックで、当サイト管理者は、「山本五十六こそ、古今東西の愚将の王者だ」と主張したことで、崇拝者や海軍びいきから猛烈な反撃をくらったものでした。 これは、そのとき我彼の間でおこなわれた投稿のやり取りを、保存ファイルをあさって、可能なかぎり再現しようとするものです。 Manforstorm(つまり私)以外の発言者については、著作権を配慮し、すべてハンドル名を変えたうえ、投稿文も主旨を損なわぬ範囲内で書き改めました(いえ。書き改めているところですが)。 そうした変更が論議の再現への忠実性をゆがめるほどではないと信じます。 |
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ヒトラーは。 ● 英軍拠点マルタ島に大攻勢をかけて攻め落とし、地中海の通運を回復させる。 ● かくして、北アフリカのロンメル軍に可能なかぎりの補給をおこなう。 ● スターリングラードにはかまわず、南方軍団の全力でコーカサス油田地帯を占領する。 ニッポンは。 ● 「絶対国防圏」の範囲まで戦線を縮小し、太平洋側で完璧に守勢を保つ。 ● 国防圏全域をカバーするよう島々に飛行場を建設し、空母なしで空母を迎え撃てる体制を。 ● 国防圏水域での海運の安全確保を優先。対潜防御に力を入れる。 ● 潜水艦隊をUボート並みに本格的に運用。敵側の洋上補給を可能なかぎり妨害する。 山本は。 ● 空母機動部隊の主力で東洋艦隊を撃滅し、セイロンを攻略。かくしてインド洋を制圧する。 ● 陸軍をインドに上陸させ、全土を独立運動の騒乱に陥れる(インド人には迷惑だろうけど)。 ● そうして足場を確保しつつ、駒を進めていき、ペルシア湾から最終目的地スエズへと迫る。 ヒトラーと皇軍上層部がどれほど協調できるかにもよりますが、やはりこうした一連の軍事行動以外に、枢軸側の余命を長引かせる全体戦略はあり得なかったでしょう。 日独が戦争に勝利し、それで世界が良くなったとは思えませんが。 山本五十六をあくまで「正義の士」にしておきたい人に対して言うのですが。 山本五十六は自己のおかれた状況をわきまえない「正義の士」でした。 いかに彼が高潔な人格の持ち主だったにせよ、当時の日本は露骨な軍国主義国家であり、連合艦隊はしょせん侵略の道具にすぎなかったからです。 もしも山本が、愛国心と正義とを両立させたいなら、海軍そのものを従えて帝国日本に宣戦し、祖国の民衆をファシズムから解放する以外に道はなかったでしょう。 まさに理想の選択だったのですが、それはスエズ攻略より百倍も困難なことでした。 山本が陸軍との協調を望まず、ドイツと合同で戦うのも忌避したとはいえ、連合艦隊のワンマン・ショーで祖国の窮地を救おうとした彼の選択は、その後の帝国全体が被った災禍のことを思うならば賢明と呼べるものではありません。 山本がセイロン攻略案を軍令部から退けられた時、真珠湾遠征やミッドウェー作戦を認めさせたように、その地位を賭けてでも受け入れさせなかったことで彼にも祖国にも最大の悲劇がもたらされたと結論付けられるのです。 |
実は、一度きりで投稿が終わるはずだったという話
――「ヤフー掲示板遠征記」を成立させた裏事情――
そもそも筆者には初めから、かくも大々的に山本五十六による軍略の不手際を突き詰めようという意図などありませんでした。 ヤフー掲示板に初投稿をおこなったとき、山本の作戦をカーディガン騎兵旅団の突撃になぞらえた新見解を人々から感心してもらえれば十分で、あそこでの「愚将ヤマモト」についての投稿はそれ一件きりで終わりになる予定だったのです。 ところが、ひとりの海軍びいきの女性(自称)による常軌を逸した応答ぶりによって、トピックはサナダ虫のようにどんどん増殖していくことになったのは記録が示す通りです。 そのように論議を発展させた、yamamotoisoko(仮名)なる人が私にしつこくからんだ事情……。 過去ログも読まず、あら捜しや揚げ足取りの禁じ手ばかりでこちらの主張を封じようとするやり方、マナーといい投稿内容といい、あまりにも無体なので、一体この人はどのトピックでもおなじなのだろうかと疑問をもち、別のトピックでのisokoさんの発言を拾い読みしてみました。 すると案の定。isokoさんは、私が初投稿をした数日前、山本五十六による短期決戦早期講和の戦略に賛同する発言をしていたことがわかったのです。 しかも、その内容。 あの開戦前夜、日本が東亜を侵略することで招いた災いをあたかも、「か弱き乙女(日本)が狼藉な大男(米国)に手篭めにされる」瀬戸際であるかのようにたとえている。 そういう状況が当てはまるのは、フィンランドとかギリシアのような小国が侵略された場合だけで、あの時局での大日本帝国がアメリカから禁輸を切り札に中国から兵を引くよう迫られたからといって、なんの言い抜けもできるものではありませんでした。 それをisokoさんは、開戦と同時に連打を食らわせ戦意を喪失させようとする日本軍のやり方を、生娘が暴漢に反撃する心得でも説くように、しゃあしゃあと語っている。 「急所を蹴り上げ、ひるんだ隙に飛びかかり、馬乗りになって喉元にナイフを突き付けたら、巨体な男の人でもなにもできませんでしょ」とかなんとか……。 「あ。こんな精神状態の人と仲良くせずにおいてよかった」 心から、そう思ったものです。 yamamotoisokoさんは私の「山本愚将説」に自己の主張への挑戦を感じ取り、縄張りを侵された蛇のように飛びかからずにいられなくなったのでしょう。 山本五十六や日本海軍を弁護するためですらない、ただ自分の面子のためにだけ、ああして反論にならない反論を繰りかえしたというわけです。
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「おまえのログばかりで、相手側のログが少ないぞ。不公平だろ」と云われましょうが。 実際のヤフー軍事板では、逆に、こちらのほうこそ極端なほど不利な状況に置かれていたのをご銘記ください。 なにしろもう、汚い手ばかり使ってきて。 過去ログに目を通さず難癖つけるのが反論者の基本仕様。露骨な野次りは当たり前。前述のとおり、あら捜しや揚げ足取りの禁じ手ばかりで主張を妨害。はなはだしくは、こちらの言い分を捻じ曲げて伝え、言いもしないことを言ったかのよう印象付けしたり(たとえば。連合艦隊で英国本土を攻撃するよう論じたとか、あげくの果て、こちらをナチのシンパだと思わせたり。なんたる侮辱! てめえこそ日章旗かざしたネオナチだろが!)。 ええ。最前線の指揮官が敵側から部隊を分断されないよう、補給路を遮断されないよう目を光らすのと同じに、もう必死でした。 幾度となく「中間報告」なる総まとめの投稿をおこない、自分側の主旨をしつこいほど強調しているのはそのためです。議論を見守る層から変なこと言い張る人みたいに誤解されたらたまりませんから。 後日の感想では、「掲示板の議論って、ああやるものなんだね」と感嘆する声もあったけど、「ああやるもの」じゃなくて、「ああやるしかなかった」んです! 今にして思えばですが。あの掲示板での議論とは、カテゴリーの管理をまかされ一人で何役もを演じるヤフー社員を相手取るものだったという疑いが濃厚で。 いや。 話を戻すとですね。 そもそも、向こう側の発言内容がほとんど手元に残っていないんですよ。 おそらくは、「ファイルとして保存する」価値をみいだせなかった反論ばかり繰り返されたことに主たる理由があると思うのですが、文句をつけてきた人たちの投稿がどこを探してもほとんど見つからない状態でした。 そのうえに軍事版でのスレッド自体の消失と相まって、あの「論争」を完全に近い状態で再現することは至難となりました。 いかに無体な内容ばかりであれ、相手側の発言が手元にあって再利用できるなら、議論の全体の流れを再現する上での有為なよすがとなったのにと悔やまれてなりません。 (いずれにせよ、著作権との兼ね合いもあって、そのままのカタチでの採録はできないわけですが) そうした事情により、この読み物を「事実に基づいたフィクション」と割りきって、各反論者のキャラクターとその発言内容を象徴化させましたことをご了承ください。 |