夜と霧で奪われたもの


 ヒトラーはユダヤ人を、あたかも人体において膵臓や胆嚢が有害だから摘出せねばといった言い草で、あってはならぬものとみなし、人類の中から滅ぼし去ろうとした。
 だから、そうした本質的意味においてホロコーストは人類への罪といえる。

 この点では、欧米人の間でも認識が不徹底なようだが、筆者の見解では、執行者たちが大量に殺したことや殺戮を効率化させたことをもって、この出来事が他の残虐行為から差別化して印象づけられるようではいけない。

 どの民族に属する者も、ユダヤ民族におこなわれた暴虐を、哀れな他者へのいたわりではなく、それがおよぼした世界への影響を思いやり、あらゆる民族から成り立つ人類全体の損失という観点から自分たち自身の問題として捉えなおさなければならない。

 そこにおいて初めて、「夜と霧」は人類への罪として糾弾できるのである。



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