水と油



 日本人とドイツ人。
 ヨーロッパとアジアに隔たり、肌の色まで異なりながら、双子のようによく似ていた両国民。
 第二次世界大戦とはつまるところ、日独国民の(たぶんに体系的な)集団性の妄想が現実のものとなるのを現実世界が阻止しようとした戦争だった。

 個人の狂気は多くの場合、私的な妄想に浸りきるかたちとなってあらわれ、周囲に害をおよぼすことは滅多にない。
 だが、一人一人は普通に見える人々が寄り集まってかたちづくられる集団性の狂気は、現実と対立し、現実の中に自分たちの共有する妄想を具現化する団体行動へと向かう。
 彼らは、現実と折り合うというやり方でなく、大人数で現実を征服することによって妄想を強引に実体化させてしまうのだ。

 そうした狂気の塊が巨大な足場となって在らしめられた二つの国家、第三帝国と大日本帝国が世界の中に存立できる余地ははじめから失われていたのかもしれない。
 ドイツがヨーロッパの半分を支配し、日本がアジアの大部分を占領したとしても、それは、妄想が集団の力を得て一時的に実体となった状態にすぎず、現実世界の反撃の前に維持する力が失われれば、混ぜ合わされた水と油のように分離してしまうものなのだから。

 日独と彼らを取り巻く世界とは、まさしく水と油だったのだ。



戻る