日本俳優の国際的商品性2
(邦画余話)




 歴代もっとも売れた日本人役者といえば早川雪舟だが、彼はハリウッドのスターとして大成したわけだから、産業貿易に貢献したとは言えない。
 ずっと格付けは落ちるが、ケイン・コスギも上山草人と同様、日本にいては陽の目を見なかったハリウッド巻き返し組だ。
 では、三船敏郎は?
 ふたたびドイツ俳優と対照させることになるが、最盛期でさえ、あのクルト・ユルゲンスほどに国際性を認知されていたのだろうか?
 ハリウッド・スターが居並ぶ「ミッドウェイ」では、唯一の日本人スターとして迎えられた三船だが、実のところ一般のアメリカ人にとって、部下の山口少将を演じた禿げ頭の日系人男優のほうが、テレビで人気を得ていた分、ずっと顔馴染みだったに違いない。
 「世界のミフネ」は、マクシミリアン・シェルかハーディ・クリューガーあたりと同格にランクするのが妥当と思われる。
 怪優クラウス・キンスキーとみごとに張り合うのが、仲代達矢。
 美貌のヘルムート・ベルガーに対するは坂本龍一。もっとも、出演作はベルガーのほうがずっと多い。ただし、ベルガーにオスカー級の楽才はない。

 女優篇。
 マレーネ・ディートリッヒは別格として、マリア・シェル、ロミー・シュナイダー、マイ・ブリット、センタ・バーガー、リリー・パルマー、クリスチーネ・カウフマン、ハンナ・シグラ……。
 これらドイツ系女優に匹敵する和製の映画女優は?

 これが、いない!
 「将軍」での島田陽子の人気ぶりは、「ルーツ」の黒人少年レビー・バートンと同じことで、一時的なものにすぎなかった感がある。
 島田陽子とならび栗原小巻も国際女優と称されはしたが、結局、あのB級女優、谷洋子( 知ってるかな? )ほど広範な活躍ぶりを示すことはなく、したがって、残された知名度も谷洋子におよばずだ。
 日本にかぎらず、東洋人の女優が欧米でスター性を発揮するには、むろん個の強さは不可欠だが、なまじ我の強さを出すと、東洋的な奥ゆかしさがないと疎まれてしまうから、エキゾチックなセクシー女優として売る以外ではむずかしい状況なのだ。 

 以上。
 日本人スターの国際的な位置付けは、そう考えれば、ほぼ間違いないだろう。
 ドイツだけでなく、イタリアやフランス、ロシアなど、だれがだれとタイ・マッチなのか比較推測するのも、一興かもしれない。
 ただし、くれぐれも日本の世界的スターが、ハリウッドのマルチ・ミリオン・フィギュアたちと対等の商業価値を北米市場で発揮できるとは思わぬように。