馬、死ぬ
(邦画余話)




黒沢明の愛馬だった「夢号」が死にました。
享年33歳。馬にしては長生きなんでしょう。
「影武者」や「乱」にも出演したそうで、馬にしては輝かしい芸歴です。

ひとつの時代が終わりましたねえ……。(遠い目で)

それにしても、『影武者』と『乱』と。
かなりの黒澤好きでも、あの二作を、「力作」なのは否定できないにしても、「傑作」と評する人はいないんじゃないでしょうか。

もっとも、『乱』などは海外で絶賛されたそうです。
イギリスの映画評の中に、「あまりにも傑作で、評価が日本では賛否両論に割れていることが信じられない。偉大すぎるので、嫉妬しているのでは?」というのもあった由で。
どうもよくわかりません。

いま見直しても、見通すのがしんどい(とくに『乱』のほう)。
それくらい妙な美意識でゴチゴチに凝り固まった演出でした。
白黒時代の生きの良さはどこに行ったと思いたくなるほど。

インタヴューで「NHKの大河ドラマ見たら、俳優が目をむきだして演じてる。馬鹿だねえ。芝居なんて力ぬいてやらないといけないのに」と批判した黒澤ですが、おなじことを自身がやってるのがわからないとは。
黒澤の場合は、個々の役者ではなく画面全体を縛りつけていたのです。

それでも馬が走る描写だけは自然な迫力がありました。
動物に芝居は強制できませんから。
そこが取り柄だったわけですが、黒澤はさすがに馬から学ぶことまではできず、大軍勢を自在にうごかせる身分に得々としていたようです。
惜しまれます。




故黒沢監督の愛馬死亡 大空町で余生「夢号」33歳
「影武者」「乱」にも出演


 【大空】網走管内大空町で飼育されていた故黒沢明監督のオスの愛馬「夢号」が十九日に老衰で死んでいたことが分かった。人間なら百十歳以上になる三十三歳だった。

 夢号は一九七六年、米国生まれ。黒沢監督の映画「影武者」と「乱」に出演した。八九年、旧女満別町(現大空町)で黒沢監督が映画「夢」のロケを行ったのが縁で、九八年、監督の遺族が夢号を町に寄贈していた。

 北海道に来てからは町営牧場や公園で飼われ、黒沢映画の愛好者や観光客の人気を集めていたが、十九日朝、冬季飼育用の厩舎(きゅうしゃ)で死んでいるのが見つかった。

 夢号の受け入れに尽力した旧女満別町の元職員谷本二郎さん(68)は「気高く品のある馬でした。黒沢監督の映画にかけた思いが女満別に伝わったようで、感謝しています」と話していた。


(北海道新聞/2009年4月1日)
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/topic/156071.html