「霊能笑戦」エピローグ


         

このイメージ画像は、描画メーカー「NovelAI」で制作されました。



 若やいだ笑い声は減り、石碑が増えた。
 銘々の碑に、この戦いに殉じた者が悪魔に立ち向かったときの言葉が刻まれている。
 殉笑者の在りし日を偲ぶとともに、「こんなギャグでは悪魔に殺される」見本として後続への戒めとなすために。

「冗談のわかる人に悪い人はいない」
「美女がびじょびじょ」
「ドラキュラやて? どらどら」
「わしを愚王だと? ぐおーーっっ!」
「タクさん、たくさん可哀想」
「ブワーーーッ!」
「よくも、みんなから愛されているこのぼくを」
………………。

 笑えなかった。
 こんな具合に晒されたのではたまらない。
 寄席也もまかり間違えば似たような戯言(ざれごと)を口にしていたかもしれず、きわどさに身が縮む思いがする。
 けれども。
 あえなく討ち死にした者も誰一人として無駄死にではなかったと信じたい。
 とにかく彼らは前座として、寄席也が対処の術を見い出す時間稼ぎの役割を果たしてくれた。
 そうして国難に際し、人々のため青春と人生を捧げたのだ。
 「高徳の笑霊」として末永く祀られていくだろう。



 すべてが落着した後。
 明日は(みんなが)霊笑館を去るという夜。ジンサイは寄席也を私室に呼んだ。


「大阪へ行って、芸人になるのか」
「はい。芦下組長が事務所に紹介してくれる手筈で」
「言っておくが。貴公のような本格派のギャグ才はこの国では売れぬぞ」
「覚悟はしています」
「覚悟で人気が取れたら世話がない。貴公は見かけが生真面目すぎる。悲哀を背負っておる。もっと、いい加減でパッパラに見える奴が受けるんじゃ」
「そう見えるよう励みます」


「前から言おうと思うとった」
 ジンサイは、       。
「おぬしは……若い頃のわしとよう似ておる」

 ジンサイの語りが続く間、寄席也は心安らかではなかった。
 なんでこのジイさん、俺にこんな執着するの?
 名残りを惜しむにしてもくど過ぎる。
 大事な要件を切り出したいようだけど。
 まさか。
 実は血がつながってるとかじゃないよな?
 そんなのって……ありがちだもんな……俺がジイサンの落とし子とか……だったら、いやだな〜。

 果たして。
 長話の最後にジンサイは、強烈なオチを叩きつけてきた。
「貴公」
 ジンサイは意を決した顔で、進み出る。
「襲名せぬか? 八代目高徳仁斎を」
 襲名どころか。
 襲撃したいと思ってたほどなのに、このジイさんを。
 おっと、いけない。
 寄席也は自戒した。
 こんなダジャレ、考えるだけで天国の父から頭突きを喰らう。



「悪魔は退けられたのでは?」
「今回はな」

「だが、また生まれてくるじゃろう。
人の世が哀れな女に悪魔を孕ませる。笑うことから遠ざけられた不幸せ過ぎる女に。
そして、たるんだ笑いでいい気になり、ふやけきった者どもに猛り狂い、いびり殺す」
「(それは)いつ頃?」
「もう15年から20年ほどすれば……あの赤子が大人になる頃かの」
 寄席也は内心で安堵した。あと15年はここに来なくて済む。
「そのときは、ぼくも戻ってきます」
 できたなら。なにか理由を見つけ、来ないで済ませよう。
「ふふふふ……」
 ジンサイは笑いだした。
 めったに笑わぬ、あのジンサイが。
「戻ってくる、じゃと? ふははははは……何を言うか。貴公はすでに戻ってきたではないか」
 (寄席也の目が点になった顔のアップの描写がしばらく続く。)
「わからんか? 貴公はこの島で生まれた。その日までに何もいい思いをしなかったおまえの母親から産み落とされた。世の不幸のエキスが濃縮され一身に染みついた悪魔の子としてじゃ」
 もはや。
 寄席也の人生で、これほどぶったまげることはあるまい。
 ルーク・スカイウォーカーが実の父親を知らされたのに比すべき驚愕。
「そして、悪魔の子を笑わすためこの地に集められた大勢の霊笑師を祟り殺した。未熟なネタをけっして許さぬ呪いの泣き声で(。わしの弟子も多くが死んだ)(死に(命を落とし)、かろうじて(悪魔(悪霊)を祓いのけたのだ)」
「………………」
「おまえの母は悔やみ、詫びた。そして、誓った。贖いとして、自分の子を立派な霊笑師に育てあげ、次に生まれる悪魔に立ち向かわせると」
かくして、一人前のギャグ使いに成長したおまえは里帰りを果たしたという寸法じゃ。

ここへ来るには厳しい審査が必要なのは知っておろう。宇宙飛行士に選ばれるほどの超難関じゃ。ところが貴公は母親の手紙一通で楽々と通り抜けた。名立たる推薦者もおらぬ身なのに。自分だけ選抜試験を免除されたのを変とは思わなんだか?」

「なぜか? 素質的に、悪魔の子として生まれてしまった者は悪魔に対して耐性がある。悪魔を打ち負かす強力な霊笑師に育つことが期待できる」(からじゃ)



「総代はなぜ、(それほどのことをご存知なの)でしょう?」
「わしも悪魔の子だったからじゃ」
 (いや。)これには驚かなかった。道理で、と納得させただけだ。

「わしの母も不幸せのどん底でわしを産み落とした。おまえと同様に。多くの霊笑師をあの世に送るのと引き替えに清められ、一人のまともな人間となった」
 ここで、ジンサイがまともな人かどうかはツッ込まない。
「(こうしたことは)今に始まったことではない。人と悪魔との暗闘は(など)悠久の昔から繰り返されてきた。 」



 ジンサイの部屋から出ると、仲間が待っていた。
「ごっつ長かったわね」
「心配したぞ。あのジイさんに言い寄られてるのかなって」
「よせや」
「ぶっちゃけ、何の話だったの?」
「襲名だ」
「なぬ?」
「ところで、あの赤ん坊は?」
「はい、は〜い♪」

「天使のような寝顔。この子が悪魔の子として、大勢の仲間を     たなんて信じらんない」
「もともと、普通の子だからな」
「人類なの?」
「そうさ。ぼくらと変わらない」

「罪があるとすれば、世の中全体さ。社会から母親のこうむったストレスがこの子の身に濃縮されて変異を遂げ、残忍なかたちで発現しただけなんだ。言ってみれば火山の噴火口とおなじで、周期的に放出されるエネルギーの通り道となっていたにすぎない」
 その役割も済み、清められた(鎮静された)。

「さて。まだ名前を付けてなかったな」

「おまえには、二代目大前寄席也を襲名してもらう」
 幸多ジャレが赤ん坊の顔を覗きこみ、微笑んだ。
「最高のジョークじゃない? 嬉しそうに笑ってる」



( おしまい )







『「ぼくをあいつらにやっつけさせてください」「なぬ?」』
『おまえは小さい頃、拾われていたのを捨てられたんだ』
『瞑想です。お腹を手の上におきましょう』
『「落ち着け! 俺の目を見るんだ!」「余計ムカムカしてきたわい』
『クエン酸を飲むとね、みんな健康になって患者が減り、医者がクエ〜ン、クエ〜ンと泣くんだよ』
「大将が軍勢を渡河させてるとき、橋が落ちてな。大将の部下、ぎょうさん溺れ死んだ。慌てふためく大将さん。「部下が! 俺の部下が〜〜っ!」。部下たち、ブカブカ浮いてんねん」



有馬多(ありまた)
有賀多(ありがた)寄席也

有潟




御仕舞(おしまい)
御前
尾舞
尾前
大舞

オルネンとイテハル (漫才コンビ)

「お笑い三賢人」


ヘロデをだまくらかすため、三賢人の振りをするよう命を帯びた三馬鹿の物語。
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